単純性血管腫の同義語

単純性血管腫(angioma simplex; ポートワイン母斑 ポートワイン血管腫 Port-Wine Stain; 火炎状母斑 nevus flammeus; capillary malformation)(以下PWSと略記)は見ての通り多くの名前を持つ。単純性血管種(たね)ではなく単純性血管腫(はれもの)である点に注意。

単純性血管腫が所属する血管腫というカテゴリーについて

PWSは血管腫(angioma)というカテゴリーに属し、全血管腫の45%を占める。血管腫という名前自体は古くから用いられてきた名前であり、良性の腫瘍であるように聞こえるが実際は、腫瘍(tumor; 数がたくさんなもの)、奇形(malformation; 形が異常なもの)、過誤腫(hemartoma; 数も形も正常だが場所が異常なもの)の三つを含めていたため一つの言葉で表すことは非常にややこしい。このうち、PWSは奇型に該当する。血管腫の腫という漢字は元来膨張する、だとか自律的にどんどん増える、という意味を持っている。肉が重なってることからも想像に難くない。それゆえ、例えばPWSは増殖性の病変ではないにも関わらず単純性血管腫と命名されてしまったが故に誤解も生まれやすい。腫は腫大と言うように腫れるという意味も持つが、それでも色々な現象を表すのに、この一つの言葉で表すことは誤解を招きやすい。

これらの問題を解決すべく新しい疾患名も登場した。しかし執筆者により各々の疾患名を個人的な解釈に基づき使用するため新旧が混ざり、矛盾や紛らわしい記載が現れてしまった。この状況は今をもって存在し、日本では特にそれが顕著である。PWSを単純性血管腫と呼ぶことからもわかるだろう。

そこで、1982年にMullikenとGlowackiが、今まで血管腫にくくられてきた疾患を内皮細胞の増殖の仕方を基準に二つに分けることを提唱した。→Plast Reconstr Surg. 1982 Mar;69(3):412-22.血管内皮細胞(Vascular endothelial cells)とは血管の、直接血液と接する部分を成す細胞のことである。内皮細胞の細胞分裂が亢進、または細胞が死ににくくなり内皮細胞が過形成してしまうものを腫瘍に、内皮細胞の増殖、死亡のサイクルが正常のものを奇形に、それぞれ分けるという内容であった。

これは誤解、混同を避けるのみならず、診断や治療に役立つものであった。血管病変が増殖するかどうか、退縮する可能性はあるのか、ということはレーザー治療等の計画に大きく左右することであったからだ。

この提唱は多くの賛同を得ることになる。これ以降、血管腫を意味するangiomaは以前angiomaに属していた疾患のうち、腫瘍病変のみを示す言葉になった。この定義の変更には注意が必要である。ただ、単純性血管腫という日本語は相変わらず使われている。これは日本の慣用であり、我々はそれに従わざるを得ない。欧米ではもうほとんどangioma simplexという単純性血管腫に相当する言葉は使われない。しかし日本では、単純性血管腫という言葉が主流を占めるため、英語圏ではほぼ使われていないangioma simplexという単純性血管腫に対応する言葉が使われている。繰り返しになるが、単純性血管腫は腫瘍性病変ではないため血管腫ではなく、毛細血管の奇形である。以上を踏まえて、日本形成外科学会MedlinePlusMeSHMedicineNet.comメルクマニュアルの記述を読むといい。

各サイトにおける単純性血管腫の記述について

日本形成外科学会のはよくまとめられていて、ここを読めばこのHP読まなくてもよいのではないかとも思う。ただ、通常3〜4回のレーザー治療で効果が得られます。という記述は、通常3〜4回のレーザー治療で完治できるのではないかと誤解させてしまうのではなのだろうか。

MedlinePlusはかなり素晴らしい。是非一読を。MeSHはコンパクトにまとめられている。MedicineNet.comはDue to an abnormal aggregation of capillaries, a port wine stain is a type of hemangioma.と書かれている。hemangiomaとは血管腫という意味だが、先天異常や血管増殖の結果できる、腫瘍性の血管腫を意味する。横にずれるが、angiomaも同じ血管腫という意味であり、それは血管の拡張に関係なく血管やリンパ管の増殖が原因の血管腫という意味である。この記述とは関係ないが、巷の本はあまりhemangiomaとangiomaを意識して使い分けているようには思えない。話を戻す。同じくMedicineNet.comの、A port wine stain on the face is a sign of the Sturge-Weber syndrome. というのも、すこし厳密性に書けるのではないか。偽陰性を避けるという意図によるものだと思われるが。

偽陰性→本当はSturge-Weber syndromeであるのにチェック項目上では陰性、つまりSturge-Weber syndromeを否定する結果を得た時に偽陰性と言う。早期発見が重要な疾患の場合、偽陽を多く出したとしても偽陰性を少なくしなければならないのでチェックを厳しくするのが普通。ちなみに偽陰性と偽陽性の両方を同時に減らすには検査手段そのものの変更が必要。

メルクマニュアルは良性腫瘍の項に書かれている。ただ、最初に、火炎状母斑は血管の拡張からきており頸と頭皮に好発する。と書かれていることから、編集者はまとめる上でこう分類したのだと思われる。ただ、三叉神経領域の火炎状母斑はスタージ-ウェーバー症候群の要因である。という記述はMedicineNet.com同様厳密性に欠け、“三叉神経領域の”を“三叉神経第一・二枝領域の”に訂正するべきだと思われる。