単純性血管腫は原因か結果か
PWSが原因で他の症状が表れる場合、他の原因によりPWSと他の症状が同時に表れる場合、の違いに注意したい。また、PWSがこの部位にある場合はまずこの症候群、ではなくこの症候群ならまずこの部位にPWS、PWSがこの部位にある場合はこの症候群を警戒するべき、であることに注意したい。この項に書かれている症候群は母斑症、または皮膚神経疾患と呼ばれることを覚えておくと、自分で調べる場合役に立つ。
Sturge-Weber syndrome(SWS)(スタージ・ウェーバー症候群)
同義語として、encephalotrigeminal or encephalofacial angiomatosis; meningofacial or meningocutaneous angiomatosis; Sturge-Weber-Dimitri syndrome ;Sturge-Kalischer syndrome;Sturge-Kalischer-Weber syandrome; Sturge-Weber Krabbe syndromeがある。Sturge-Weber-syndrome、Klippel-Trenaunay syndrome 、Parkes Weber syndromeの三疾患をまとめてecto-neurodermal hamartomaと呼ぶこともある。
多くは非遺伝性。家族性発症があり常染色体優性遺伝を示唆するものもある。発生頻度は約10,000人に1人。希少難病疾患。SWSはPWSが真皮以外の部分にも出来てしまったため起こる病態と言える。SWSでは、顔面半側の三叉神経(trigeminal nerve)第1・2領域にPWSが現れる。中でも第1領域のPWSはほぼ必発と言われる。三叉神経領域は、下の絵を参照。
→Gray's Anatomy第1枝(眼神経; ophthalmic nerve)領域が緑、第2枝(上顎神経; maxillary nerve)領域が赤、第3枝(下顎神経; mandibular nerve)領域が黄色である。
真皮と脳軟膜(pia mater)、脈絡膜(choroid)に血管腫が発症する。これらはすべて同側。その結果、脳軟膜の血管腫からはてんかん発作(seizure)や大脳皮質(cerebral cortex)の萎縮(atrophy)による知能障害、てんかん発作や大脳皮質の萎縮は、脳軟膜の血管腫が静脈血の停滞を促し、それによりその直下にある大脳皮質に虚血性の傷害をもたらし、そして大脳皮質の石灰沈着(calcinosis)、神経細胞の脱落、変性を引き起こすことによる。また、大脳皮質の傷害から、PWSと反対側の片麻痺(体の左右片方が麻痺になること)を来たすことがある。
脈絡膜の血管腫からは房水(hydatoid)の流れの障害から、顔面部のPWSと同側の緑内障と牛眼を来たすことがある。緑内障(glaucoma)とは眼圧の上昇による視神経障害で、これにより視野障害や視野狭窄をきたす。眼圧とは眼球の中の圧力で、眼房水の産生と排出のバランスで保たれている。牛眼(buphthalmia, buphthalmus, buphthalmos)とは眼房水の増加による緑内障の末期的症状で、眼球が膨大する。
PWSの病因は、胎児期の顔面と頭部に分岐する前の血管の発生異常であると考えられている。つまり、正常では消失するはずの血管が残ったままとなり、顔面の皮膚と脳軟膜に血管腫が生じるのではないかということである。
SWSの治療はPWS同様、対症治療となる。緑内障は眼圧の調整を通して予防する。ただこれには早期診断が必要である。眼圧調整がうまくいかなかった場合、外科的アプローチもある。大腦症状においては抗けいれん薬を用いてけいれん発作をコントロールする。コントロールがうまくいかなかった場合は脳外科的アプローチも候補の一つである。顔面のPWSは、PWS単体の場合と同様のアプローチをたどる。
SWSにおいては早期診断、眼圧やけいれん発作のコントロールが大切である。生命予後は良好であり、QOLを高めるためにもこれらをおろそかにすることはないようにするべきであろう。
診断は諸々の症状と頭部X線上の石灰化を認めれば可能である。CT、MRIを用いることにより石灰化以前の血管腫を早期に発見することができる。鑑別疾患はLawford syn. Wyburn - Masson syn. Cobb syn.、PWS単体と精神症状を呈する他の疾患との複合例。ちなみに、本記載における血管腫(e.g.脳軟膜の血管腫、脈絡膜の血管腫、石灰化以前の血管腫etc.)とはhemangiomaなのかmalformationなのかはわからない。“恐らく”hemangiomaであるとは思うが、わかり次第明記したい。
Klippel-Trenaunay syndrome(KTS)(クリッペル・トレノネー症候群)
過去、Parkses Weber syndromeと同様の症候を示し区別が困難であるためKlippel-Trenaunay-Weber syndrome、またはKlippel-Weber syndromeと呼ばれていた。Parkes Weber syndromeは動静脈瘻(arteriovenous fistula)を伴い、Klippel-Weber syndromeは静脈系の血管奇形を持つ。これらは治療や余後が異なっていることを理由に、最近では2つ独立したものと考える傾向が強い。
非遺伝性。遺伝的素因は少数の家系で示されているが、未だ議論の余地があり解明されていない。病因もまた未だにいくつかの仮説がある段階で決着を見ていない。希少難病疾患。
一つは、遺伝性の母斑症で、先天的な血管奇形(vascular malformation)が病変の組織を肥大化させると考えるもの。一つは、交感神経系の一部が子宮内で損傷を受け、血管の拡張や組織の肥大が起こると考えるもの。もう一つは、血管形成時の血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor ; VEGF)やアンジオポイエチン2(angiopoietin - 2)の変化により血管やリンパ管の発生異常、分化の異常、内皮細胞の過剰な増殖と四肢の肥大を引き起こすと考えるものがある。
症状は、左右片方の手足にPWSが現れる。また、その手足の肥大や延長が起こる。これは骨や軟部組織の肥大による。静脈拡張等の静脈奇形や動静脈痩をみることもある。
診断は四肢のvascular malformation(主にPWS)と軟部組織や骨の片側肥大延長から可能。鑑別疾患はMaffuci syn. Proteus syn. 等。
生命予後は比較的良好であり、よりよい人生を歩むため、つまりQOLを高めるために治療が行われる。治療は、四肢肥大に対して持続圧迫療法や補高器具が行われる。手術は塞栓、結紮、硬化、切除療法を利用した血流調整、PWSに対するレーザー療法がある。しかし血流調整は術後初期は改善するものの再発する可能性、より症状が重くなる可能性もあるため治療は難しい。血管の走行や血流動態を把握するためにもCTやMRI、血管造影、ドップラーエコー等を用いる必要がある。
足の長さの不均等を是正するための治療はX線を多用して左右差を十分に把握する必要がある。不均等は股関節に負担がかかる為である。その治療は骨端閉鎖術や仮骨延長術を用いる。
Parkes Weber syndrome
Klippel-Trenaunay syndromeと似た症状を持つが、動静脈瘻を持つ点で異なる。 他の異なる点を以下に述べたい。KTSはPWSが主に下肢に発症しやすいが、Parkes-Weber syn.では主に上肢に発症する。また、その病変は深部にまで達している場合が多い。治療はまず動静脈瘻や動静脈奇形の治療が必要で、血行動態を血管造影等で把握した後に塞栓両方、結紮療法等で血流速度を低下させる。それに引き続いて硬化療法や切除に移行する。しかし血流のコントロールはKTSに比しても難しく、有効な治療法は少ないのが現状である。
色素欠陥母斑症(Phakomatosis Pigmentovascularis)
病因は未だ不明。仮説はあるものの、いずれも仮説の域を出ない。PWSと同時に扁平母斑や色素性母斑、蒙古斑様青色斑といったメラノサイト系母斑が存在し、一部重なる部分もある。他の疾患を合併することもある。頻度の高いものはSturge-Weber syn. Klippel-Trenaunay syn. Parkes Weber syn. 等である。そのため、臨床症状の観察や検査は大切である。
治療はPWSに対するものと青色斑等の色素性病変のものとに分かれる。PWSに対するものはPWSと治療の項を参照のこと。色素性病変に対してはQスイッチ・ルビーレーザーやQスイッチ・アレキサンドライトレーザー、Qスイッチ・Nd・YAGレーザー等のパルス幅が短いものが使われる。ルビーレーザーは血管に障害を与える可能性は少ないが、色素レーザー(PDL)は色素性病変を障害する事がある。その為、重複している場合はルビーレーザー→色素レーザーの順で治療することになる。
von Hippel-Lindau syndrome
同症候群発症時に、稀にPWSを発症する。常染色体優性遺伝で、原因遺伝子は染色体3番に位置する。症状は小脳や網膜などに血管芽細胞種が多発する。腎臓には腎細胞癌、褐色細胞腫がみられる。そして、稀に頭頚部にPWSがみられることがある。
先天性血管拡張性大理石様皮斑(cutis marmorata telangiectasia congenita)
同義語として、Van Lohuizen syn., naevus vascularis reticularis, congenital livedo reticularis,livedo telangiectatica congenita generalisata
同症候群発症時に、高率にPWSを発症する。病因は多くの仮説があるものの、それらの証拠はなく未だ不明。持続性の大理石様皮斑が主となる症状で、特徴的な大理石様皮斑がみられる場合、他の皮膚病変や合併奇形がなくとも診断することができる。
また、四肢に、特に下肢に、結合組織、皮下脂肪組織、筋肉、骨、そしてまれに血管の低形成を伴う場合がある。このような低形成が起こると当該部が細くなる。しかし一方短くなる場合は多くない。
多くは散発的な発症であるが稀に家族性の発症もみられる。発生頻度は3000人に1人と想定される。これは多く見受けられるが、皮疹は加齢と共に不完全ではあれ消失する傾向があるため、奇型などの合併がみられなく見逃されてしまうケースが多いため、と考えられている。
本症に関連合併する可能性のある奇型は非常に多い。皮膚疾患系では、血管腫(hemangioma)、vascular malformation(PWSが多い)、静脈瘤様腫脹(variococities)、venous hypoplasia、phlebectasias、Sturge-Weber syndrome、Klippel-Trenaunay syndrome、aplasia cutis congenita、congenital generalized fibromatosis、扁平母斑(nevus spilus)
筋骨格系では、hemiatrophy or hemihypertrophy of a limb、terminal transverse limb defect(Adams-Oliver syndrome)、合指症(syndactyly)、widely spaced toes、側彎症(scoliosis)、body asymmetry
循環系では、心房中隔欠損症(atrial septal defect)、動脈管開存症(patent ductus arteriosus)、重複大動脈弓(double aortic arch)、venous hypoplasia
中枢神経系では、大頭症(macrocephaly)、脳血管異常(cerebrovascular anomalies)、二分脊椎(spina bifida)精神発達遅滞(mental retardation)
眼症状では、緑内障(glaucoma)
歯科口腔系では、小顎症(micrognathia)、口蓋裂(cleft palate)、dental dystrophy
消化器系では、鎖肛(imperforate anus)、肝腫大(hepatomegaly)
内分泌系では、先天性甲状腺機能低下症
泌尿器生殖器系では腟瘻(rectovaginal and/or urethrovaginal fistulas)、absent clitoris、尿道下裂(hypospadias)
本症を高率に合併する症候群は少なくとも二つ存在することがわかってきた。一つはmacrocephaly-cutis marmorata telangiectasia congenita syndromeで、本症以外にPWS、prenatal overgrowth、巨人症(macrosomia)、片側肥大、水頭症(hydrocephaly)、frontal bossing、筋緊張低下(hypotonia)、developmental delay、loose skin、joint hypermobility、toe syndactyly、postaxial polydactylyといった症状で特徴付けられる。遺伝的な背景についてはよくわかっていない。
もう一つはAdams-Oliver syndromeである。1/25の割合で本症が認められ、頭部に高率でaplasia cutis congenitaがみられる。他の合併症は本症に合併する症状に多くが含まれている。常染色体優性遺伝である。
先天性血管拡張性大理石様皮斑の治療について。大理石紋様皮斑に対するPDLの効果は乏しい上に瘢痕を生じる可能性が高いため避けたほうが無難である。本症に合併するPWSに対する治療は単独の場合と同様である。合併する奇型は生命予後とQOLとに大きく関係する。合併する奇型があるものの慎重な治療と十分な対策がなされている場合、合併症が軽度、あるいは皮疹のみである場合は生命予後、QOLは良好である。