症状について

PWSは赤あざを呈する。散発的なものと家族性のものがあるが、大部分は散発的なものである。普段使う言葉で言うと、遺伝するものもあるけど遺伝しないものが大部分である、ということになる。散発的というものは、PWSを持つ人が誰一人いない家系の中に発症したような例を指す。

疾患名の由来について

赤あざの様子は時に赤ワインが滲んだ白いテーブルクロスのように、時に炎のようにと描写される。これらは白人のPWSを見て形容したもので、日本人ではまた違った風情、趣があると思われる。port wineとはポルトガルのドウロ地方のポルト港から積み出される甘く強いワインのことを指す。ポルト港ってギャグに聞こえる。stainはシミだとかそういった意味で、歯磨き粉のステインクリアだとか、教会のステンドグラスのステインである。

疾患の日本語名とその由来について

日本語では単純性血管腫、英語ではPort-Wine Stainという呼ばれ方をよく目にする。単純性血管腫とはangioma simplexの和名であり、angiomaが血管腫、simplexが単純性に対応する。もっと細かく言うと、angio-が血管、-omaが腫に対応している。angiomaとは血管腫という意味であり、血管の拡張に関係なく血管やリンパ管の増殖が原因の血管腫という意味である。hemangioma simplexと呼称する場合もある。

nevus flammeusは火炎状母斑という意味で、nevusが母斑、flammeusが火炎状に対応する。母斑とはアザのことで、生涯を通してあまり変化しない色調と形態の異常のことを指す。ラテン語で母斑を元来naevusと呼ぶが、現在ではnevusと書く。複数形はnevi。ドイツ語ではmuttermalと呼び、ここから母斑という日本語が生まれたと思われる。英語でmaternalという単語に対応している。

複数ある疾患名の内、使用されるものについて

医学中央雑誌ではポートワイン母斑がthesaurus用語として使われているようだ。PubMedのMeSH(Medical Subject Headings)ではPort-Wine Stainが選ばれている。正しい表記を求めるとしたら、日本語ではポートワイン母斑、英語ではPort-Wine Stainということになるのだろうか。あまり意味のないことだが。それでも、単純性血管腫という名称が不適切、不便であるのでよい方針だ、と思う。

しかしながら単純性血管腫という名称は今も根強く残っている。当サイトの題名は単純性血管腫、という名称を用いているが、これはまだこちらの方が多くの人に用いられているからわかりやすいかな、という意図による。それに代わる言葉の認知度が単純性血管腫と逆転したら変更したい。不適切、不便なわけだし。

疾患名と分類について

先のMullikenらによる分類で分けると、PWSはvascular maiformation(VM)に分類され、更に細かく分類すればcapillary malformation(CM)となる。PWSとCMは同義である。PWS=CM∈VM日本語風に言えば、毛細血管(capillary)の奇形(malformation)、ということである。VMは血管(vascular)の奇型(maiformation)、つまり血管奇形ということである。

詳しい症状の説明

PWSは出生時より症状を呈する、先天性の疾患である。出生時に症状を示さない場合もあるが、PWS自体の特徴は出生時すでに有する。つまり、あるけど見えないということである。具体的に言うと、疾病部周辺の皮膚が赤みがかっているために症状を発見できない、なんらかの理由により赤血球数が減少しているため疾病部の赤みが薄く発見できない例がある、などの場合である。例えば炎症(inflammation)による紅斑(erythema)、例えば貧血(anemia)など。PWSの赤は赤血球の赤である。

よく似た疾患について

同じように出生時に赤あざを呈する疾患として、サモンパッチ(salmon patch; Unna母斑 Unna nevus)がある。体細胞性優性の遺伝性(hereditary)を持つとされる。サモンパッチも毛細血管の拡張(dilation)により起こり、限局性にできたPWSとも言える。そのため、硝子抵圧法(diascopy)による鑑別はできない。ちなみにサモンパッチはおでこ真ん中から眉間にできたものを指し、Unna母斑はうなじの真ん中にできたものを指す、というように区別する場合と同一視する場合がある。しかしサモンパッチ(Unna母斑)はあくまでその二点が好発部位というだけであって、全身で起こりうる。そして、この二点では薄くはなっても消退することは多くない。特に、項部にできるUnna母斑の半数は成人期まで残存する。salmon patchは生後一年半以内に大部分は自然消退する。

その特徴はPWSに酷似しており、淡紅色の母斑平坦な母斑を呈する。PWSと比べて違う点は、境界が不明瞭、色調がやや不均一でムラがある点である。決定的に違うものは自然消退傾向がある点である。そのため、自然消退傾向のないPWSとの鑑別が必要である。また、非常に高率に起こる。新生児の20-40%であるという。医師や看護師が言う、「このアザは出産時に出来たアザでその内消えます」という言葉はこのサモンパッチのことを想定していると思われる。

症状の時間的変化について

逆に大部分のPWSは時間が解決してはくれない。自然消退は稀である。その面積は逆に、加齢により増大する。この理由に、人間の皮膚は成長により拡大コピーされるように増大していくことがあげられると思う。Barskyらは、身体的成長の後は、PWSの面積は増大しないと報告した→J Invest Dermatol. 1980 Mar;74(3):154-7. 成長後には、色調の変化や隆起性の変化があるのみであるという。これは毛細血管の拡張が進行性であることに起因する。

色調は加齢により、暗く濃くなっていくケースが多い。幼児期には薄いピンクや淡い赤だった色が暗赤色や暗紫色になる傾向がある。色調は均一でその境界は明瞭である。皮膚表面も出生時には平坦であるが、思春期以後病変部が肥厚して凹凸不平になり、さらに結節性(nodular)の隆起を生じることが多い。これは顔面部や頚部に多い。

赤ちゃん結節性変化

左(上)はMedlinePlus、右(下)はIranian Academy of Medical Sciencesより。

硝子圧法について

また、あざの赤い色は赤血球の赤であるため、加圧、つまり押すと退色する傾向がある。赤い水の詰まったチューブを地面に置き足で踏むと、足の下直下の赤い水は非常に少なくなる、というイメージでよいかと思う。この特徴を利用しあざについて調べる方法が硝子圧法で、ガラス板を疾病部に押し付けその下のあざが退色するか否かを観察する。PWSでは退色傾向を示す。ちなみに鮮やかな赤い色は動脈血であり、献血で見る青黒い血は静脈血である。

診断について

以上をまとめてPWSの診断に至る。つまり、出生直後からの、加圧退色傾向のある赤いあざがあればPWSと診断される。他の、例えば、境界が明瞭である、平坦である、というものは例外もあるので、あくまでPWSの特徴というということになるだろう。

疫学について

PWSの発生率は、報告者によりさまざまである。これは統計学的な問題が明らかに存在する。具体的な数字は0.3-0.5%、0.3%、0.6%、0.3-2.0%、1.7%等様々である。0.3-2.0%、1.7%といった大き目の数字は日本の研究者から報告された数字で、日本では世界の中でもPWSが好発しやすい地域なのかもしれない。それとはまた違う理由として、サモンパッチ(salmon patch)という類似疾患を含めるかどうかという点で発生率に大きな差が生ずるのではないか、と考察する研究者もいる。

男女差はなしとするものがある一方、差異があるとする場合は女児に多いとするものが多い。これは、発生率を調べるときは出生時にカウントするが男女差を調べるときには外来検診時にカウントすることに原因があるのではないかと考察するものが多いようである。つまり、整容美容的な問題として女性が患者の場合の方がより意識が強いため両親が外来に同伴すると考えるものである。外来統計では約6-7割くらいが女性であるようだ。部位別では顔面部が最も多く、次いで上半身の体幹部である。これも外来検診時のカウントであるため意識の強弱を反映した結果であると考えられる。それにしても、発生率は出生持にカウントするそうだが、サモンパッチとPWSの鑑別は如何様にするのだろうか。